4年間、黒羽刑務所にいた人のブログ

        私が刑務所で服役した4年間を振り返ります

4. 教育訓練工場(新入訓練工場)


教育訓練工場はそんなにきつくない?


 さて「工場」の話ですが新入(しんにゅう)はまず「教育訓練工場教訓)」に配役になります。ここで2週間、刑務所での基本的な生活を学びます。この時にしっかりと刑務所生活に慣れておかないと、後の工場配役時に「教訓で何を習ってきたんだ!」と怒鳴られるハメになります。
 黒羽刑務所の教育訓練工場での作業はローソクの検品、仕分け等の軽作業ですただし、ここでは作業を学ぶというよりも、刑務所生活に必要な集団行動訓練、申し出の仕方、願箋の書き方、発信の仕方(手紙などの出し方)、日用品や書籍の購入方法、風呂の入り方、起居動作時限について学ぶなど刑務所のイロハを学ぶことを目的としています。教訓での教育がなっていないと、工場に配役になった時、工場担当の先生(初犯刑務所では刑務官のことを「先生」と呼びます)から教訓の先生に「いったい教訓で何を教えていたんだ?」などと文句が来る事もあるので、教訓の先生は常に怒鳴ってピリピリしていますw。ただし、教育訓練工場がきつかったかと言うとそうでもありませんでした。長々と行進などの集団行動訓練がありますが、常識的な範囲です。私の場合、むしろ配役先の工場のほうが厳しかったです。


追記)初犯刑務所における刑務官の呼び方について
・刑務官と直接会話するような場合の呼び方 → 〇〇先生
・刑務官がいないところで、懲役同士で話のネタにする場合 →〇〇のオヤジ
という使い方をします。〇〇には刑務官の名字が入ります。


教訓(新訓)で学ぶ事


 教訓での2週間は、後になって思い出してみればなんでもない事を教育される訳ですが、最初は皆緊張しており、また当然初めての刑務所生活ですから戸惑う事も多いのです。行進時の手の上げ方や声の出し方、布団の畳み方、荷物の整理の仕方、入浴の仕方、配食時の役割分担、洗濯物の出し方、日用品購入の方法、手紙の出し方等今後の刑務所での生活についてのすべてを叩き込まれます。まぁ、ここですべてを覚えきらないでも、工場に配役になった後に同衆に教えてもらえば良い事が大半です。


 
 なお、懲役なのですから当然刑務作業があります。前述の通り、黒羽刑務所の場合はロウソクの検品と選別でした。規格を満たしたロウソクとそうでないものをひたすら分けます。はっきり言って誰にでもできる単純極まりない作業でした。


 忘れていました。作業中は、「脇見、雑談、無断離席」すべて厳禁です。絶対に目元から目を離してはいけません。顔を上げれば時計があるのですが、それを見ることも許されません。当然隣の人と喋ってもいけません。材料などを落としてしまっても絶対にそのまま取ってはいけません。すべて刑務官の許可を得てから行うことになります。従わない場合は調査・懲罰になることもあります。



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5. がんじがらめの遵守事項

 私は、なんとか教育訓練工場を2週間で卒業することができました。はっきり言って不幸中の幸いです。これまで訓練工場のことで精一杯でした。そして、今になってようやく「所内生活の心得」というものを見つけました。もちろん存在は知っていましたが、読む時間がなかったのです。ですので今日はしっかりと目を通そうと思います。さて、その中身なのですが・・・


                         ~~ 被収容者遵守事項 ~~


(1) (逃走)逃走し,又は逃走することを企ててはならない。


(2) (自殺企図)自殺を企ててはならない。


(3) (自傷行為等)自傷し,もしくは異物を飲み込む等身体に害を及ぼす恐れのある行為   をし,またはこれらの行為を繰り返してはならない。


(4)(視察妨害)視察孔を壊し,汚損し,若しくは許可なく走ったり,隠れるなどして,   職員による視察を妨害し,又は妨害することを企ててはならない。


(5) (無断離席等)許可なく定められた就寝位置を変更したり,指定された席若しくは場   所を離れ,又は立ち入りが禁止された場所に入ってはならない。


(6) (不正連絡)許可なく,又は許可された方法によらず,他人(自己以外のすべての者   を言う。以下同じ。),外部の団体と連絡し,又は連絡することを企ててはならない。


(7) (拒食)正当な理由なく,拒食を続けてはならない。


(8) (診療等の拒否)健康診断及びその実施上必要な医学的措置,生命に危険が及ぶとき   又は他人に疾病が感染する恐れのあるときに実施する診療及び医療上の措置は,これを拒否してはならない。


(9) (不正製作等)許可なく物品(金銭を含む。以下同じ。)を製作し,加工し,所持    し,隠匿し,壊し,若しくは投棄し,又はこれらの行為を企ててはならない。


(10)(建物の損壊)建物,設備,備品等を故意に壊し,又は壊すことを企ててはならない。


(11) (設備の機能妨害)電気,ガス,水道,非常ベル,通路等施設の設備等の機能を妨    害し,若しくはこれらを本来の用途に反して用い,又はこれらの行為を企ててはならない。


(12) (交通妨害)人の通行を妨害する目的で,施設内各所の通路,出入り口等に障害物    等を置き,工作を施し,又はこれらの扉の開閉を妨げてはならない。


(13) (火気不正製作等)許可なく,火を発し,若しくは使用し,又はこれらの行為を企    ててはならない。


(14) (虚偽風説流布)虚偽の風説を流布し,又は流布することを企ててはならない。


(15) (物品不正使用)使用を許されている設備若しくは物品を,許可なく本来の目的と    異なる用途に用い,又は定められた使用法に反して使用してはならない。


(16) (物品不正授受)許可なく他人と物品を授受し、又は授受することを企ててはなら    ない。


(17) (不正配食等)不正に配食し,又は喫食してはならない。


(18) (作業材料汚損等)作業製品や作業用の材料,器具等を汚損し,隠匿し,壊し,     若しくは投棄し,又は故意に不良品を製作してはならない。


(19) (酒、タバコ等の製作)酒類,タバコ若しくはこれらと類似のものを作成し,所持    し、隠匿し,用い(飲酒、喫煙等),若しくは他人と授受し,又はこれらの行為を企ててはならない。


(20) (シンナー等の吸引)シンナー若しくはこれと類似するものを吸引し,又は,吸引    することを企ててはならない。


(21) (無断洗濯等)許可なく,衣類等を洗濯し,身体若しくは髪を洗い,水を用いて拭    身し,又は水を撒き散らすなど,水を乱用してはならない。


(22) (暴行等)他人に暴行を加え,若しくは傷害を与え,またはこれらの行為を企てて    はならない。


(23) (けんか)他人と喧嘩し,若しくは口論し,又はこれらの行為を企ててはならな     い。


(24) (侮辱等)他人を中傷し,誹謗し,若しくは侮辱し,又は他人に対し,粗暴な言動    をしてはならない。


(25) (脅迫等)他人を脅迫し,威圧し,だまし,若しくは困惑させる言動をなし,又    は他人に対して義務なきことを強要してはならない。


(26) (物品喝取等)他人の物品を盗み,だまし取り,又は脅し取ったりしてはならな     い。


(27) (性的行為等)他人との間で,又は他人に対して性的行為をしてはならない。


(28) (わいせつ行為等)故意に陰部を露出するなど,他人にわいせつな又は嫌悪の情を    起こさせるような行為をしてはならない。


(29) (文身等)文身を施し又は髪若しくは眉に剃り込みなどして著しく特異な形に変え    てはならない。


(30) (とばく等)とばく若しくはとばく類似の行為をし,又はこれらの行為を企てては    ならない。


(31) (作業拒否等)正当な理由なく,指定された作業を拒否し,怠け,又は妨害しては    ならない。


(32) (動作時限違反)故意に定められた動作時限に違反する行為をしてはならない。


(33) (改善指導等の拒否)正当な理由なく,刑執行開始時や釈放前の指導等及び改善指    導,教科指導を拒否し,怠け,又は妨害してはならない。


(34) (作業安全衛生違反)作業安全衛生に定められしこと又は指示されたことに違反し    て作業し,その他これらに違反する行為をしてはならない。


(35) (点検等の拒否等)職員による人員点検若しくは身体,着衣,居室若しくは物品の    検査を拒否し,又は妨害してはならない。


(36) (汚損行為等)建物,設備備品等に落書きしたり,汚損したりしてはならない。


(37) (張り紙等)許可なく張り紙をしてはならない。


(38) (静穏阻害)壁や扉をたたくなどして騒音を発し,放歌し,口笛を吹き,又は正当    な理由なく大声を発するなどして,静穏な環境を害してはならない。


(39) (不正交談等)交談を禁じられている時又は場所において,正当な理由なく話をし    てはならない。


(40) (残飯投棄等)残飯,ごみ等を所定の場所以外に投棄し,又たんやつばをまき散ら    すなど,施設の環境衛生を害する行為をしてはならない。


(41) (職務執行妨害)職員の職務の執行を,暴行,脅迫その他の方法で妨げてはなら    ない。


(42) (暴動等)暴動や騒じょうをじゃっ起し,若しくはこれに加わり,又はこれらの行    為を企ててはならない。


(43) (反抗)職員の職務上の指示等に対し,抗弁,無視その他の方法で反抗してはなら    ない。


(44) (反復要求)職員に対し,執拗に要求を繰り返してはならない。


(45) (集団形成)他人に対する脅迫,威圧,要求若しくは職員に対する反抗を目的とし    て集団を形成し,又は形成することを企ててはならない。


(46) (唆し等)他の被収容者に対し,この遵守事項に違反することをすすめ,唆し,又    は手助けをしてはならない。


(47) (連行拒否)正当な理由なく,移送,転室,取り調べ等のための職員の呼び出し    又は連行を拒否してはならない。


(48) (刑罰法令違反)この遵守事項に定めるものを含め,刑罰法令に違反してはならな    い。


【職員の指示に対する違反】
 遵守事項に違反した場合のほか「刑事施設および被収容者などの処遇に関する法律」
 第74条第3項の規則に基づき職員が行った刑事施設の規律及び秩序を維持するために
 必要な生活及び行動についての指示に違反した場合にも,同法150条第1項の規則に
 基づき,同法第151条第1項に定める懲罰を科されることがあります。



 この遵守事項はどこの刑務所にも舎房に備え付けられています。どこの刑務所においても、内容はほぼ同じです。


 それじゃあ、この遵守事項をすべて覚えれば、懲罰にならずに済むなぁと思いたいところなのですが、実際にはそんなに単純なものでもないんです。



  また、職員の指示は絶対であり、これに従わない者には懲罰を科すことができるとも明記されており、職員のその時の気分次第で懲罰を食らう可能性があります。


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6. ついに工場配役(こうじょうはいえき)

工場配役(こうじょうはいえき)


 教育訓練工場をなんとか卒業し、ついに一般工場に配役されることになりました。
本音を言えば、図書工場や計算工場に行きたかったわけなのですが、まあ、私は精神安定剤を服用していたので経理工場へ行けなかったのは仕方ないと思います。経理工場については後述します。


※注意:知っておいてほしいこと
刑務所では精神科(心療内科)で処方される薬(統合失調症治療薬、抗うつ薬、精神安定剤など)を服用していると様々な不利益を被ります。(ただし、睡眠導入剤についてはあまりうるさく言われない傾向があると感じました。勿論、服用していないのが一番ですが)。


そして、どのような不利益があるかというとこのような感じです。
機械を使うような仕事をさせてもらえません。
・機械が使えなければ、立ち役である【運搬係】や【班長】になることもできません。

・座ってできる単純な作業をずっと続けることになります。
・作業報奨金が一定額(3等工)で頭打ちになります。
・後から入ってきた後輩がどんどん出世していき惨めな思いをします。
・先述したような経理工場に行くのもまず無理です。
・各工場において、雑役(立ち役)と呼ばれる【用務者】にもなれません。
・職業訓練の受講を希望しても基本的に許可されません。

身元引受人がいない人の場合、「更生保護施設」(通称:保護会)という所がその代わりをしてくれるのですが、これらの薬の飲んでいると断られる可能性が高くなります。つまり仮釈放が認められなくなり満期出所となってしまいます


そして、工場担当の職員もできるだけやめろと圧力をかけてきます!



経理工場とは刑務所の運営に携わる作業をする工場のことです。


黒羽刑務所では、炊場、図書工場、中央計算工場、洗濯工場、営繕工場、内掃工場、寮舎保清工場、看護工場、処遇棟保清工場などの経理工場がありました。


 一般工場と比べると優遇区分である「類」が上がりやすいほか、制限区分については一般工場の人間はほとんどが3種であるのに対して、明らかに2種の被収容者が多いです。ですからこのことを知っている人は当然経理工場に行きたいと思うでしょう。



 ですので、刑務所に入る際には、睡眠導入剤、精神安定剤、抗うつ剤 などの薬は可能であればやめたほうが良いです。もちろん娑婆にいるときから処方されていて、薬が必要な人もいるわけですから、そのような方は無理してやめるようなことはしないほうがよいと思います。離脱症状が発現する場合がありますので。
 ご自身の刑期と相談して決めることをお勧めします。


 また、これを逆手にとらえて、作業の簡単な工場へ行こうとする者も見られます。そういった工場は若い受刑者が少ないため、人間関係が比較的緩いことが多いのです。それでも一定数は曲者がいますがね。


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 話は変わりまして、配役された工場には幸いにも教訓で一緒だった人がいました。あまり話したことはなかったのですが、これは心強い! 行き先は第◯工場でした。(身バレが怖いので伏せさせてください)。


 まずは正担の河田先生に2人で挨拶に行きました。(職員の名前はすべて仮名です
キツめのことを言われることも覚悟していたのですが、そんなことはありませんでした。


 黒羽刑務所は日本人だけでなく、外国人受刑者も大勢います。検身場の説明をしてくれたのが外国人だったのですが、何言っているのかよくわからないし、かなり高圧的でした。文句の一つでも言ってやろうと思ったのですが、懲役では先に入った人が絶対であるので我慢しました。


 その後、計算係から日用品や雑誌、単行本の買い方、医務回診の受け方、その他諸々を教えてもらいました。
 最後に衛生係が洗濯物の出し方の説明や食堂の席を教えてくれました。


 これらの説明を受けた後、ようやく刑務作業に入ることになリます。


 と言ってもこの工場が作るのは100円ショップで売っているような紙製のファイルでした。


  1 紙を折る
  2 留め具をつける
  3 検査係がチェック
  4 合格したものを出荷


 という感じで、えええっ、刑務作業ってこんな単純作業なのかと驚きました。


 逆に考えれば、これくらいの仕事しかないということなのでしょう。
今、全国には8万人以上の懲役がいるのになんと勿体ない使い方だと思ったものです。




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