11. 刑務所での懲罰とは何か?
今回は規律違反をするとどの様なことになるかを書きたいと思います。
まず、刑務所には、懲罰執行者・調査中の受刑者・集団生活が困難な者などを隔離する場所が必ずあります。反則行為をすると連行され、まず簡単な調べが行われます。それが取り調べ相当と判断されると「調査」となります。この時点で身柄がそれまでいた工場から抹消されます。調査中や懲罰中に入る部屋ですが、一般の独居房と基本的には変わりありません。ただし、部屋の中で暴れたり、自傷行為の恐れのある受刑者の場合は、食器やスプーンなどが紙製だったり、衝立(用便の際に便器の横に置くもの=プライバシー保護のため)が本来の木製ではなかったりする場合もあります。そして最大の問題ですが、テレビがありません。工場に出て作業をしていないので当然ではありますが・・・。ここで軽作業をしつつ、取り調べを受けます。一度調査になると少なくとも調査終了まではもとの生活に戻れません。運動も入浴も一人です。やってしまった内容にもよりますが、1~3週間は覚悟したほうが良いでしょう。
これらの流れは一般社会の例に置き換えるとわかりやすくなります。
・反則行為をした疑いのある受刑者を連行 = 逮捕
・反則行為の疑いが濃厚の場合は調査 = 警察官・検察官による取り調べ
・懲罰審査会 = 裁判
・懲罰内容の言い渡し = 判決の言い渡し
このような感じです。ですから、明らかな遵守事項違反をした場合でもいきなり懲罰となることはありません。その前に調査という名の取り調べが必ずあります。
調査が終わると上述の通り「懲罰審査会」というものが開かれます。裁判のようなものですが、弁護人はいません。一応、弁護人的な役割をする刑務官もいます。起こした規律違反行為について弁明を述べる機会も与えられます。とりあえずは裁判のような感じではあるのですが、そこにいるのは全員刑務官であることをお忘れなく。その後、懲罰内容の言い渡しがあります。
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懲罰の種類(軽い方から)
①不問 : 規律を違反した事実は認められなかった。(調査中止とも言います)
②訓戒:厳重注意。
(①と②に関しては類(優遇区分)は下がりません。したがって特に不利益を受けることはありません)
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③戒告
④刑務作業の10日以内の停止
④自弁の物品の使用又は摂取の一部又は全部の15日以内の停止
⑤書籍等の閲覧の一部又は全部の30日以内の停止
(ただし、被告人若しくは被疑者としての権利の保護又は訴訟の準備その他の権利の保護 に必要と認められるものを除く)
⑥報奨金計算額の3分の1以内の削減
⑦30日以内(懲罰を科する時に20歳以上の者について、特に情状が重い場合には、60 日以内)の閉居
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不問や訓戒で済んだのならしめたものですが、一番メジャーなのは⑦でしょう。独居房内で姿勢を正した状態で朝から夕方までず~~~~っと座っていなくてはなりません。座り方は安座(あぐら)か正座です。姿勢を崩してはいけません。時計がないのも結構なストレスになります。なお、昼食の時間は普通に喫食することが許されます。
ちなみに、みなさんが想像するような懲罰専用の部屋(懲罰房)というものはありません!!!
基本的には、調査中にいた部屋から生活に必要なものを除いて荷物は全て外へ出されます。ここで閉居の懲罰を受けることになります。用便(トイレのこと)も許可制です。報知器で願い出なくてはなりません。ただ座っているだけでも十分辛いのですが、真夏や真冬にあたったら悲惨としか言いようがありません。冷暖房なんて文明の利器はありませんから相当堪えます。また家族が面会に来ても許可されません。
そして「お務め」を終えると、ようやく地獄から開放されます。そして、次に行く新工場の告知を受けます。一番下っ端からやり直しというわけです。前にも触れましたが、元の工場に戻る場合もあります。ここらへんも日頃の行いが影響するというわけです。
なお、喧嘩や刑務官に殴りかかるなど、興奮がおさまらない受刑者を一時的に入れておく部屋として「保護室」がありますが、その時点では懲罰の受け渡しを受けていないわけですから、そこを懲罰房と呼ぶのはふさわしくないでしょう。
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模範囚ってなんですか?
よく社会では「模範囚」って言葉を使いますよね。要するに心より反省し、作業に真面目に取り組んでいる受刑者のことを言っているのでしょうか。模範囚であれば無期刑でも15年で出てくるとか、かつては言われていたようですが、もちろん今はそんな事はありません。
私は、刑務所の中で「模範囚」という言葉を聞いたことがないように思います。現在の刑務所では職員が受刑者に対して「囚人」という言葉を使用することはないでしょうから、模範囚も使われなくなったのかもしれません。ただし「模範」という言葉は当たり前のように使われています。
なお、模範的に、つまり真面目にやっていればいるほど仮出所が早くなるとお考えになるかもしれませんが、そうではありません。
懲罰を複数回受けていても身元引受人がしっかりしていれば、仮釈放は許可されます(もちろん受刑者本人の反省、被害者の処罰感情等も十分考慮されます)。初犯刑務所であれば刑期の8割前後の消化が目安になると思います。 逆に、いくら真面目にやっても引受人がいなければ満期出所となります。仮釈放で大切なのは「仮釈放準備面接(準面や仮面と略します)」以降の刑期の終盤で懲罰を喰らわないことです。
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懲罰を受けないで出所することは意外と難しい。
悪いことをして刑務所に入ったのだから、真面目に毎日を過ごすのは当たり前です。
ところで、今現在、社会で普通の生活・仕事をしている人が、仮に刑務所に入ることになったとしましょう。残念ながらそのような人でも、刑務所内では簡単に懲罰になります。
何故かを一言で言ってしまえば、一般社会での常識が、刑務所内では通用しないからです。とても真面目そうな人でも比較的簡単に懲罰になります。ですから、「刑務所で懲罰になった」=「反省していない」ということではないことを理解していただきたいと思います。
黒羽刑務所では入所後の3年間無事故(懲罰を受けていない状態)である人の割合は10~20%程度と言われています。つまり、8割以上の人が何らかの懲罰を受けているわけです。
「刑務所まで来て懲罰を受けるなんて反省していないなぁ」はかなりの確率で的外れな考えです。
なお、逆に3年以上懲罰なしの「無事故・無違反」であった場合は、その後、懲罰を受ける可能性は、かなり低くなると言われています。良くも悪くも、塀の中での生活に慣れてしまうのです。ただし、自分に対する処遇はどんどん改善していきますので、刑務所内のルールに則って生活することをおすすめします。
ちなみにこんなことでも懲罰になることがあります。
・一生懸命作業に集中しすぎて怪我をしてしまった。
(作業安全義務違反または自傷行為の疑い)
・洗濯に出すものを間違えてしまった。
(不正洗濯)
・作業中、職員が机を叩くので何かと思って顔を上げた。
(脇見)
・運動時間中に転んで怪我をした。
(運動の際は怪我をしないようにと訓示があるので、職員の指示に従わなかった)
・隣でおきた喧嘩の仲裁に入った。
(喧嘩・口論等)
・休みの日、自分の部屋の中で、肩が凝ったので腕を回した。
(不正運動)
・同部屋のお爺さんのちり紙がなくなってしまったので、すこしあげた。
(不正授受)
・体調不良がひどく、医者に診てもらえないか何度も要求した。
(反復要求)
・刑務作業中、時間が気になったので顔を上げた。
(脇見)
・就寝時に眠れなかったので本を読んだ。
(起居動作時限違反)
・食事の配当の際、味噌汁がいつもより少ないと配食係に意見を言った。
(不正交談)
などなどキリがありません。いかに理不尽なことに耐えられるかが刑務所生活なのです。
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